
70代男性。
3日前に自宅で家具を移動して腰が痛くなったが治まった。昨日、室内の模様替えをして腰を痛めてぎっくり腰になった。以後靴下を履く動作や前かがみが痛く、怖くて出来ない。また、体を左に捻ると左腰~側腹部にかけて痛い。今朝痛み止めを飲んだが効果なし。1年前にも同じ症状になって病院に行ったが、レントゲンを撮り、痛み止めの飲み薬の処方だけだった。
奥様がたまたま知らない人の噂を聴いて当院を調べて予約。お車でご主人を連れて来院されました。
前かがみにならないように慎重に靴を脱いで、入り口の段差を上がってこられました。お話を伺い動作痛を確認してから何とか仰向けになれるので、お体の状態を見極める為に仰向けで脈やお腹、皮膚の状態を触って確認する。「やはりそうか」。ここ数日急に寒かったり暑かったり気候の変動が大きく、体に「風邪(ふうじゃ)」が入った状態でした。風邪は東洋医学では普段我々が使っている「かぜ」よりも広い概念で急な痛みや移動する痛み、脳卒中→中風(風に中【あた】る)等も含み、「かぜ」は風邪(ふうじゃ)のせいとも限りません。
鍼は初めてとのことなので、刺激量を少なくするために鍉鍼(ていしん)という鍼で本治法(臓腑・経絡全体のバランスを調える)と散鍼(左右のバランスを整える)を行なう。リラックスされているご様子に見えました。幸いお腹や脈のバランスもだいぶ整いました。

↑少し見づらいですが、ボールペンの隣の金色のものが鍉鍼です。普段はその隣の2本銀鍼とステンレス鍼を使って本治法を行なっています。黄色の持ち手がついたものは一般的なステンレス鍼です。
「うつぶせになれますか」と聞くと「大丈夫です」とさっきよりスムーズな動きでうつぶせで寝られたので「良くなるな」と思われました。痛みの患部(この場合悪くする危険がある)には一か所だけ鍼を刺して、それ以外の部位に少な目に鍼をしました。鍼の痛みもなく、お灸は1か所だけしましたが熱くないので「そんなもんで効くの?」と思われたそうです。
起き上がって頂き痛かった動きをしてもらう。体を捻る動作は痛くないが前かがみはまだ痛みが残る。ツボを軽く押さえながら前かがみして頂くと痛くないのでそこに小さいシール鍼を貼って終了。
風邪の治療をしたので喉の渇きなども良くなるかも知れないと伝えると、「ここの所喉が渇いてしょうがないのに今は唾液が出ている、すごい治療だ」「(ぎっくり腰)でどうしようかと思っていたので助かった」と動きもスムーズになり帰られました。
学校では急性腰痛の前屈痛は筋筋膜性腰痛・筋繊維の小断裂、椎間板ヘルニア、後屈痛は椎間関節性腰痛等と教わります。
鍼灸の勉強会では急性腰痛は腰に原因がない場合原因を治療しなけれ良くならない。また、慢性的に腰が悪い人がぎっくり腰になった場合と、そうでない人が急になった場合、さらに頑丈な人がなった場合と弱い人がなった場合は経過も治療法も異なり、病状と体質に合わせて施術しなければならないと教わります。
未熟者の私もうまくいかなかった経験も多々してきました。道は遠く険しいですが、学・術共に日々の努力の継続の大切さを痛感しています。